昭和の時計とソ連の時計

古い時計のあれこれ

精工舎 目覚まし時計 コロナ 2

部品集合

公開日:2019/08/04    最終更新日:2020/05/18  

精工舎 コロナの部品

精工舎 目覚まし時計 コロナ 1」からの続き。
部品の集合写真です。(ガラスや胴、裏ブタを忘れてしまった)
左上の大きな部品は、丸いゴトク(これに胴や脚の外装部品が付く)に、四角い下板をかしめた物で、分解出来ません。掛け時計などは、単なる平たい板なので、ホゾ孔の修正も楽なのですが、コロナの場合は下板が小さい上にゴトクとの間に段差もあり、市販の鉄床が上手く当たらずに、結局は小さな鉄床を作る事に。
 
写真の中で、文字板や針、左下の外装関連の小物を除いた40点の部品が、目覚まし時計を動かしています。
 

精工舎 コロナ 時側の部品

もし、この時計に打ち方(ベル)が無いとすると、部品は更に26点(上の写真)までに減ります。しかもその中には、動作には直接関係の無いネジやワッシャ、クサビ(ピン)が10点も含まれていますので、時計がいかに少ない部品で時を刻んでいるかが分かります。
 
分解後、金属製の部品は全てベンジンと超音波洗浄機で汚れを落としますが、それだけでは固まった油などは完全には落ちず、最終的には顕微鏡やキズ見で確認しながら、掃除木(爪楊枝)や研磨剤などで落とします。これが分解整備で一番時間の掛かる作業です。

 
 

テン真の摩耗と研磨

 

精工舎 コロナ 摩耗した天真

テン真先端の拡大写真。(摩耗部分が磨いたように、黒く光っています。)
テンプが外れて落ちた際の破損は有りませんでしたが、油切れにより先端がかなり摩耗していますので、これを旋盤で研磨します。ゼンマイ式の目覚まし時計が全盛の頃は、この摩耗を研磨する専用の機械も数多く売られていましたが、流石に現在はオークション等で時々見かけるくらいで、私も持っていません。専用の機械を使うと、テーパーの角度などを気にせず削れるので楽ですが、旋盤で研磨する方が色々と勉強になりますので、お薦めします。

 

精工舎 コロナ テン真の研磨

尖らす最初の粗削りの状態。削れば当然短くなりますので、あまりガンガン削らない方が良いです。今回は荒い砥石を使いましたが、少し粗過ぎたかもしれません。この後、さらに油砥石の番手を細かくして行き、研磨フィルムやコンパウンドで仕上げます。

 

精工舎 コロナ 天真の研磨

何とか完成。しかし、まだ細かいキズが残っていますが、やればやるほどテン真が短く成るので、今回はこれで合格としました。ただ、少し尖らせ過ぎた感じがします。あまり尖らせ過ぎると最初は良いが、じきに摩耗して振り角が落ちるらしいのですが、どんな風に成るのか後学の為に、このまま様子を見ます。

 

 

精工舎 コロナ 受ネジの摩耗精工舎のコロナ 受ネジの摩耗 拡大


当然ながら受ネジも摩耗していました。
赤い小さな丸が、受ネジの中心で底になりますが、その左上に楕円状(黄矢印)に削られた部分が見えます。これがテン真の先端を受けて摩耗した部分です。実際に時計の組み込まれていた時は、この摩耗部分が下側になります。

受ネジは通常、表面に炭素を含ませる、浸炭焼入で作られている為に、研磨で炭素を含んだ層が削られると硬さを失い、また再度の焼入れも出来なくなるので、通常は交換となります*1。しかし、摩耗していない箇所を下にして再利用する方法もありますが、部品が有ったので今回は交換しました。

 

 
 

 ホゾ孔の修正

 

精工舎 コロナ 摩耗したアンクルのホゾ孔

写真の様にアンクルのホゾ孔が少し広がっています。仮組みして動作させると、やはりホゾが動きます(下の動画)。精度に影響する箇所なので修正する事にしました。他の箇所にも摩耗がありましたが、軽微なのでこちらは次回に持ち越します。

 


精工舎 目覚まし時計 コロナのピンアンクル脱進機


動画では、中央下側に映っているアンクルのホゾが、少し斜めに上下動していますが、顕微鏡でホゾ孔を確認しますと、ほぼ万遍なく摩耗していましたので、三日月型のタガネで裏側から全周(3ヶ所)をつめました。

  

精工舎 コロナ ホゾ孔をつめる

タガネ修正後の拡大写真。この後、丸ヤスリで孔の大きさと形を整えます。

時計(クロック)修理本の「Practical Clock Repairing」*2に、ホゾ孔にピッタリのピンがセンターから飛び出た丸孔タガネが載っていました。これならホゾ孔を変形させずに、一発でつめられて良さそうです。次回はこれを作って試したいと思っています。

 

精工舎 コロナ ホゾ孔研磨

ホゾ孔をコンパウンドで仕上げた写真。ただ、真鍮は柔らかいので、磨き過ぎると再び摩耗状態に戻ってしまいますので、ほどほどが大切です。

 


ちょっと寄り道

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右は明工舎の金床で、ホゾ孔つめによく使われています。しかし、今回は下板が小さい上にゴトクと一体の為、この鉄床は大き過ぎて使えません。また掛け時計と違い、つめる対象が小さく、適当な物で代用するのは怖いので、コロナ用に鉄床を作る事にします。材料は小さなブロックとして売られている物の中から、以下の鋼材を選びました。

 材質  :S55CN
  サイズ:25mm x 25mm x 30mm
  仕上げ:サーフェイス研磨(上下面のみ)


手頃な値段で研磨処理もされていたので助かりました。しかし、問題は焼き入れです。小さな時計の部品と違い、このサイズの鋼材をカセットガスのトーチバーナーで丸ごと焼き入れ温度まで持っていくのは至難の技。そこで今回は、必要な一面だけに焼きを入れる事にしました。*3

ひたすらバーナーで炙りますが、全然温度が上がりません。暗い赤色*4 が限界です。色々と試し、四つ角を中心に炙る事で、ようやく鋼材の 1/4ほどが、焼入れに必要な 850℃ を少し越えた感じの、明るいオレンジ色*5 に成ったので、水に漬けて焼きを入れました。既に1時間30分が経過し、カセットガスが 1本空に。


焼き入れ面にヤスリを掛けると滑ります。他の箇所は簡単に削れるので、何とか焼きが入った様です。そして、サンドペーパーとピカールで鏡面に仕上げました。焼き入れ後、200℃くらいの油で煮ると、歪みが 50%ほど取れるそうなんのですが、金型でも無いので、手軽な湯戻し*6だけで済ませました。この熱処理の選択が正しいのかは不明です。

"精工舎 目覚まし時計 コロナ 1" の [ちょっと寄り道2] で取り上げた、「初歩時計技術読本 クロック編 桑名良造 著」には、センターポンチ、孔タガネ、三日月タガネ、エグリなど、修理に使う道具の作り方が、鋼材選びから焼入れ温度まで、簡単ではありますが載っています。無い道具は作る!昔の人は凄い。

 
 

 ガンギ歯とアンクルピン

 
写真は拡大したガンギ車です。正しく調整された時計では、アンクルピンが降下し、ガンギ歯の停止面(3)に落ちると、停止面の引き角とガンギ車が回ろうとする力(写真では半時計回り)により、アンクルピンは停止面を滑りながら、歯底(4)に引きつけられます。
 

ガンギ車 各部名称

ガンギ歯の各名称。(1)衝突面 (2)ロッキングコーナー (3)停止面 (4)歯底

 

しかし、アンクルピンが停止面の何処へ落ちても良い訳では無く、位置によっては不具合が起きますので、時側の一番車(ゼンマイ)、二番車(分針)、三番車、四番車(秒針)、ガンギ車、アンクル、テンプを組み込み、ゼンマイを巻き上げた状態で、ガンギ歯とアンクルピンの位置関係(喰い合いの深さ)を調べます。
 

精工舎 コロナ ガンギ歯とアンクルピン

テン輪を指でゆっくりと動かして、アンクルピン(赤矢印)がガンギ歯の停止面に落ちる瞬間、テン輪を止めロッキングコーナー(青矢印)を基準にアンクルピンの位置を確認します。文字板側から見ると(上の写真)、容易に出爪側のアンクルピンとガンギ歯の喰合いの深さが確認できます。

「初歩時計技術読本 クロック編」に載っている喰い合い深さの図を写真で再現してみました。なお、以下の写真は、ガンギ車は半時計回りで、出爪側になります
 

精工舎 コロナ アンクルピンの位置 良い

良い。アンクルピンの中心がロッキングコーナーより少し低くなっています。
「目覚時計の完全修理 桑名良造 著」*7では具体的に、アンクルピンの 2/3 がロッキングコーナーより下になる図が載っていました。

 

浅い限界。アンクルピンの中心とロッキングコーナーが、同じ高さになっています。(しかし、写真を良く見ると少しピンが高過ぎるかも。)

 

深い限界。アンクルピンの上面が、ロッキングコーナーと同じ高さになっています。「基礎時計読本 小林敏夫 著」では、歯底と最低でもアンクルピンの直径の 1/3くらいの隙間が必要と書かれていました。

 

これらを入爪、出爪で共に、出来ればガンギ歯全てで、浅い限界~深い限界の範囲に収まっているかを確認します。もちろん調整して全ての歯で”良い”に収まるなら調整した方がベストですが、部品の加工精度により、ある程度のバラツキは出ると思います。

 

以下は修正が必要な アンクルピンとガンギ歯の喰合い深さです。

 

精工舎 コロナ アンクルピンの位置 浅すぎ

浅すぎる。アンクルピンの中心がロッキングコーナーより高くなっています。
アンクルピンは停止面で止まれず、そのまま衝突面へ歯飛びを起こす事もあります。また、引き作用で歯底へ引きつけられないので、アンクルマタがテンプの自由な振幅を妨げて、振り角が落ちたりします。

 

 

深すぎる。アンクルピンが停止面の深い位置に落ちています。
(「基礎時計読本」的には、歯底までピン径の1/3ほど有るのでオッケーなんですが…)歯底付近に落ちている場合は、アンクルマタがテン真と接触したままになり、テンプの振り角が極端に悪くなる事もあります。

 

精工舎 コロナ アンクル 調整

ガンギ歯とアンクルの喰い合いが悪い場合は、赤矢印の溝を広げたりして調整しますが、少し動かしただけでも大きく変化しますので、注意が必要です。

 
長くなりましたので、この続きは「精工舎 目覚まし時計 コロナ 3」へ書いて行きます。(まだ書けてません。ごめんなさい…)
 
 
検索で飛んで来られた方へ、 「精工舎 目覚まし時計 コロナ 1」もあります。
 
 

[更新日と内容]

2019.08.04  公開
2020.02.06 「精工舎 目覚まし時計 コロナ 1」へのリンク追加。
2020.05.18 「精工舎 目覚まし時計 コロナ 1」へのリンクを修正。

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*1:「初歩時計技術読本 クロック編」の受け売りです。知らなかった…

*2:「Practical Clock Repairing / Donald de Carle FBHI / ISBN-13: 978-0719800009

*3:以前にテレビで見たサイエンスチャンネル「THE MAKING 歯車ができるまで」の、高周波焼入れのシーンを思い出して。何でもヒントになります。

*4:正確には暗帯赤色~暗赤色で、600-650℃らしいです

*5:正確には輝明赤色で、900℃だそうです。

*6:鉄をお湯でくつくつ煮る。これ本当に熱処理なのか? 気分は料理なんだけど…。

*7:本の詳細は「精工舎 目覚まし時計 コロナ1」の”ちょっと寄り道”をご覧ください