部品集合
公開日:2019/08/04 最終更新日:2020/05/18
部品の集合写真です。(ガラスや胴、裏ブタを忘れてしまった)
左上の大きな部品は、丸いゴトク(これに胴や脚の外装部品が付く)に、四角い下板をかしめた物で、分解出来ません。掛け時計などは、単なる平たい板なので、ホゾ孔の修正も楽なのですが、コロナの場合は下板が小さい上にゴトクとの間に段差もあり、市販の鉄床が上手く当たらずに、結局は小さな鉄床を作る事に。
テン真の摩耗と研磨
テン真先端の拡大写真。(摩耗部分が磨いたように、黒く光っています。)
テンプが外れて落ちた際の破損は有りませんでしたが、油切れにより先端がかなり摩耗していますので、これを旋盤で研磨します。ゼンマイ式の目覚まし時計が全盛の頃は、この摩耗を研磨する専用の機械も数多く売られていましたが、流石に現在はオークション等で時々見かけるくらいで、私も持っていません。専用の機械を使うと、テーパーの角度などを気にせず削れるので楽ですが、旋盤で研磨する方が色々と勉強になりますので、お薦めします。
尖らす最初の粗削りの状態。削れば当然短くなりますので、あまりガンガン削らない方が良いです。今回は荒い砥石を使いましたが、少し粗過ぎたかもしれません。この後、さらに油砥石の番手を細かくして行き、研磨フィルムやコンパウンドで仕上げます。
何とか完成。しかし、まだ細かいキズが残っていますが、やればやるほどテン真が短く成るので、今回はこれで合格としました。ただ、少し尖らせ過ぎた感じがします。あまり尖らせ過ぎると最初は良いが、じきに摩耗して振り角が落ちるらしいのですが、どんな風に成るのか後学の為に、このまま様子を見ます。
当然ながら受ネジも摩耗していました。
赤い小さな丸が、受ネジの中心で底になりますが、その左上に楕円状(黄矢印)に削られた部分が見えます。これがテン真の先端を受けて摩耗した部分です。実際に時計の組み込まれていた時は、この摩耗部分が下側になります。
受ネジは通常、表面に炭素を含ませる、浸炭焼入で作られている為に、研磨で炭素を含んだ層が削られると硬さを失い、また再度の焼入れも出来なくなるので、通常は交換となります*1。しかし、摩耗していない箇所を下にして再利用する方法もありますが、部品が有ったので今回は交換しました。
ホゾ孔の修正
写真の様にアンクルのホゾ孔が少し広がっています。仮組みして動作させると、やはりホゾが動きます(下の動画)。精度に影響する箇所なので修正する事にしました。他の箇所にも摩耗がありましたが、軽微なのでこちらは次回に持ち越します。
動画では、中央下側に映っているアンクルのホゾが、少し斜めに上下動していますが、顕微鏡でホゾ孔を確認しますと、ほぼ万遍なく摩耗していましたので、三日月型のタガネで裏側から全周(3ヶ所)をつめました。
タガネ修正後の拡大写真。この後、丸ヤスリで孔の大きさと形を整えます。
時計(クロック)修理本の「Practical Clock Repairing」*2に、ホゾ孔にピッタリのピンがセンターから飛び出た丸孔タガネが載っていました。これならホゾ孔を変形させずに、一発でつめられて良さそうです。次回はこれを作って試したいと思っています。
ホゾ孔をコンパウンドで仕上げた写真。ただ、真鍮は柔らかいので、磨き過ぎると再び摩耗状態に戻ってしまいますので、ほどほどが大切です。
ちょっと寄り道
右は明工舎の金床で、ホゾ孔つめによく使われています。しかし、今回は下板が小さい上にゴトクと一体の為、この鉄床は大き過ぎて使えません。また掛け時計と違い、つめる対象が小さく、適当な物で代用するのは怖いので、コロナ用に鉄床を作る事にします。材料は小さなブロックとして売られている物の中から、以下の鋼材を選びました。
材質 :S55CN
サイズ:25mm x 25mm x 30mm
仕上げ:サーフェイス研磨(上下面のみ)
手頃な値段で研磨処理もされていたので助かりました。しかし、問題は焼き入れです。小さな時計の部品と違い、このサイズの鋼材をカセットガスのトーチバーナーで丸ごと焼き入れ温度まで持っていくのは至難の技。そこで今回は、必要な一面だけに焼きを入れる事にしました。*3
ひたすらバーナーで炙りますが、全然温度が上がりません。暗い赤色*4 が限界です。色々と試し、四つ角を中心に炙る事で、ようやく鋼材の 1/4ほどが、焼入れに必要な 850℃ を少し越えた感じの、明るいオレンジ色*5 に成ったので、水に漬けて焼きを入れました。既に1時間30分が経過し、カセットガスが 1本空に。
焼き入れ面にヤスリを掛けると滑ります。他の箇所は簡単に削れるので、何とか焼きが入った様です。そして、サンドペーパーとピカールで鏡面に仕上げました。焼き入れ後、200℃くらいの油で煮ると、歪みが 50%ほど取れるそうなんのですが、金型でも無いので、手軽な湯戻し*6だけで済ませました。この熱処理の選択が正しいのかは不明です。
"精工舎 目覚まし時計 コロナ 1" の [ちょっと寄り道2] で取り上げた、「初歩時計技術読本 クロック編 桑名良造 著」には、センターポンチ、孔タガネ、三日月タガネ、エグリなど、修理に使う道具の作り方が、鋼材選びから焼入れ温度まで、簡単ではありますが載っています。無い道具は作る!昔の人は凄い。
ガンギ歯とアンクルピン
ガンギ歯の各名称。(1)衝突面 (2)ロッキングコーナー (3)停止面 (4)歯底
「初歩時計技術読本 クロック編」に載っている喰い合い深さの図を写真で再現してみました。なお、以下の写真は、ガンギ車は半時計回りで、出爪側になります。
良い。アンクルピンの中心がロッキングコーナーより少し低くなっています。
「目覚時計の完全修理 桑名良造 著」*7では具体的に、アンクルピンの 2/3 がロッキングコーナーより下になる図が載っていました。
浅い限界。アンクルピンの中心とロッキングコーナーが、同じ高さになっています。(しかし、写真を良く見ると少しピンが高過ぎるかも。)
深い限界。アンクルピンの上面が、ロッキングコーナーと同じ高さになっています。「基礎時計読本 小林敏夫 著」では、歯底と最低でもアンクルピンの直径の 1/3くらいの隙間が必要と書かれていました。
これらを入爪、出爪で共に、出来ればガンギ歯全てで、浅い限界~深い限界の範囲に収まっているかを確認します。もちろん調整して全ての歯で”良い”に収まるなら調整した方がベストですが、部品の加工精度により、ある程度のバラツキは出ると思います。
以下は修正が必要な アンクルピンとガンギ歯の喰合い深さです。
浅すぎる。アンクルピンの中心がロッキングコーナーより高くなっています。
アンクルピンは停止面で止まれず、そのまま衝突面へ歯飛びを起こす事もあります。また、引き作用で歯底へ引きつけられないので、アンクルマタがテンプの自由な振幅を妨げて、振り角が落ちたりします。
深すぎる。アンクルピンが停止面の深い位置に落ちています。
(「基礎時計読本」的には、歯底までピン径の1/3ほど有るのでオッケーなんですが…)歯底付近に落ちている場合は、アンクルマタがテン真と接触したままになり、テンプの振り角が極端に悪くなる事もあります。
[更新日と内容]
2020.02.06 「精工舎 目覚まし時計 コロナ 1」へのリンク追加。
*1:「初歩時計技術読本 クロック編」の受け売りです。知らなかった…
*2:「Practical Clock Repairing / Donald de Carle FBHI / ISBN-13: 978-0719800009
*3:以前にテレビで見たサイエンスチャンネル「THE MAKING 歯車ができるまで」の、高周波焼入れのシーンを思い出して。何でもヒントになります。
*4:正確には暗帯赤色~暗赤色で、600-650℃らしいです
*5:正確には輝明赤色で、900℃だそうです。
*6:鉄をお湯でくつくつ煮る。これ本当に熱処理なのか? 気分は料理なんだけど…。
*7:本の詳細は「精工舎 目覚まし時計 コロナ1」の”ちょっと寄り道”をご覧ください