昭和のゼンマイ式 目覚まし時計
公開日:2019/07/07 最終更新日:2020/03/20
手元に詳しい資料が無いので色々と調べた所、フィンランドの日本製の時計を紹介するサイト*1で、1956年の古い精工舎のカタログ*2を見つけました。
その中に載っている「No.911R ニューコロナ クローム 夜光」(右端)が外観、寸法共に、ほぼ同じです。もしこれだとすると、昭和31年頃の製品で、今から60年以上も前の時計となります。精工舎のコロナは、以前から見聞きして知ってはいましたが、実際に触ったのは今回が初めてで、あれこれと勉強になりましたので、ご紹介したいと思います。
不動品でしたが外装の程度も良く、デザインも気に入ったので手に入れました。
動かないのは、油切れ程度だろうと軽く見ていましたが、揺すると中からカタカタと何かが外れている様な音がします。裏蓋を開けると、何とテンプ(赤丸)が外れていました。ヒゲゼンマイ側の受ネジがグラグラに緩んでおり、これが原因で外れたようです。普通に整備していれば、そうそう緩む事も無いとは思うのですが。
ちょっと寄り道 「寸と吋」
運良く、フィンランドのサイトで見つけた精工舎のカタログですが、カタログ自体には年代の記載も無く、本当に1956年(昭和31年)の物なのか、確信が持てませんでした。しかし、同じカタログに1956年発売の「マーベル (MARVEL)」と言う腕時計が載っていましたので、少なくともそれ以降の物と分かりました。
そして、時計のサイズ表記に古い「寸」が使われていましたので、調べてみると「寸」は旧計量法により、1958年末(昭和33年)で使用が禁止され、世間ではかなり混乱したようです。しかし、規制の対象に、製品カタログの数値は含まれず、使用に問題は無かったのですが、ただその普及に逆らってまで寸に拘ったとも思えませんので、やはりカタログの年代は、当たっていると思えます。(疑って、ゴメンナサイ)
時計の文字板のサイズ表記の吋(インチ)は、手元にある1961年(昭和36年)の服部時計店のカタログを見ると、寸と共に変更されています。しかし、このカタログは新製品を追加できるファイル式の為、カタログの年代でその単位がバラバラです。昭和36年は mm、翌年は mm、cm の併用、そして昭和38年は cm と、やはりこちらでも、混乱は起きていたようです。
ヒゲゼンマイ
外れたテンプは時計の底で転がり回っていましたが、天真には焼きが入っていますので、尖った先端は無傷でした(油切れによる摩耗は有りましたが)。被害はヒゲゼンマイだけですが、こちらは派手に変形してくれています。先ずはこの重傷のヒゲゼンマイから直していきます。
ヒゲゼンマイを天真から外して修正します。曲がりや捻れなどの単純な変形に加え、長さを何度も変えたのか、外端から 30mm ほどが、多数の曲げ伸ばしの跡や固定用クサビを打ち直した傷で、かなり痛んでいます。ヒゲゼンマイの形が崩れた事より、こちらの方が大変そうです。
写真のようなホルダーを使うと、ヒゲゼンマイの影が出ず、修正が楽になります。BERGEON のお高い物は、ガラストップでヒゲ玉の穴も2種類ありますが、私のは1種類のお安いアクリル製で、軽過ぎて作業中に動きますし、傷も良く付きます。穴が開けられるなら、厚めのガラス板の方が良いかもしれません。
サビサビ
ヒゲゼンマイの方が何とか片付いたので、機械の方へ取りかかりますが、こちらにも問題がありました。針や文字板などは綺麗でしたが、それに反して機械は写真の様に、かなり錆が発生しています。
ホゾは油分が残っていたのか、無傷でした。錆は旋盤で部品を掴んで、サンドペーパー、研磨フィルムやコンパウンドなどで磨いていきます。
ちょっと寄り道 「必読の書」
今回の修理で参考にしたのが、1969年(昭和44年)に株式会社グノモン社から出版された「初歩時計技術読本 クロック編 桑名良造 著」です。この本は同じ著者で、1955年(昭和30年)に時計技術者協会から出版された、「目覚時計の完全修理」と内容が似通っていますので、改訂版的な物かもしれません。
この本は珍しく、丸ごと一冊(119ページ)ゼンマイ式目覚し時計の修理を解説した実践的な物です。そして、その中で取り上げられているのが、今回の時計と同じ精工舎のコロナです。
しかし、残念ながら絶版になって久しいのですが、所蔵している図書館もありますので、お近くの図書館から取り寄せて、読んでみると良いと思います。また、国立国会図書館の複写サービスなどを、利用するのも手かもしれません。だたし、著作権の関係で本の半分までしか複写出来ない制限があります。
参考までに、「初歩時計技術読本 クロック編」の目次を載せておきます。
「目覚時計の完全修理」に関しては、国立国会図書館のWebページ*3 に、より
詳細な目次が載っています。
第1章 | 置・目覚時計の種類 | 9ページ |
第2章 | 分解修理に必要な工具類 | 11ページ |
第3章 | 工具の作り方 | 15ページ |
第4章 | 置・目覚時計の部品名称 | 19ページ |
第5章 | 目覚時計の動作原理 | 26ページ |
第6章 | 分 解 | 34ページ |
第7章 | 洗浄および組立 | 38ページ |
第8章 | 置・目覚時計の誤差と諸用語 | 45ページ |
第9章 | 故障の分類と修理調整の概要 | 53ページ |
第10章 | 故障個所の修理と調整 | 66ページ |
第11章 | 誤差の原因 | 97ページ |
第12章 | ガンギ車の引き作用 | 114ページ |
ゼンマイ
ゼンマイの強力な掛け時計や、逆に弱いが部品が小さいトラベルクロックに比べて、とりわけ強くも小さくも無い、目覚し時計の分解はとても楽です。
ただし、時ゼンマイを縛る際は、針金が鳴止アゲと言う部品(赤矢印)の支柱と干渉しますので、写真のように木片などを挟んで、スペースを作る必要があります。細い針金の手持ちが無かったので、掛け時計用の太い針金を使っていますが、目覚まし時計なら、1.0mm も有れば十分だと思います。新品のコロナのゼンマイも同じようなサイズの針金で縛ってあります。
ゼンマイは、縛った針金を外して洗浄しますが、強力な柱時計のゼンマイと違って簡単に外せます。ただ目覚し時計のゼンマイが弱いと言えども、写真のように広がりますし、何よりも古い物なので、金属疲労などによる破損の危険性もあります。ゼンマイの取扱い時には、必ず保護メガネや手袋を使って下さい。
ゼンマイをベンジンで拭きましたが、かなり汚れています。ゼンマイが戻る過程での滑りの悪さは精度に影響しますので、縛ったままベンジンや灯油に漬けるだけでなく、ゼンマイを完全に緩めての清掃も必要だと思います。
古いゼンマイの摺動面は、擦れて磨いたように成っていますので、こんな感じに光にかざすと、汚れの取れた部分は光を綺麗に反射して光ります。何度も光にかざしながら、些細な汚れまで落とします。
長くなりましたので続きは、「精工舎 目覚まし時計 コロナ 2」へ。
[更新日と内容]
2019.07.07 公開
2020.02.06 新しいドメイン Boctok.net へリンクを変更。
2020.03.20 リンク先のドメインを raketa.hateblo.jp へ変更。